No.20 バースフィスチュラの啓発にかける想い 助産師・ララアース代表「小笠原絢子さん」

 No.20

バースフィスチュラの啓発にかける想い

助産師

小笠原 絢子(おがさわらあやこ)さん

プロフィール

1982年生まれ。20歳の時に思いつきで看護の道へ進学し、助産師学科在学中の24歳で結婚、その後大学病院に就職。妊娠・出産を経て大学院に進学し、途上国の過酷な出産の合併症「バースフィスチュラ」について研究。助産師として常勤勤務をしながら、2017年にLapis Lazuli Earth(ララアース)を創設。バースフィスチュラの啓発活動をし、バースフィスチュラ基金を立ち上げ活動中。

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日本でほとんど知られていない途上国のバースフィスチュラ問題の現状を伝えたい―助産師・小笠原絢子さんとは?

こんにちは。Lapis Lazuli Earth(ララアース)代表、助産師の小笠原絢子です。バースフィスチュラ(birth fistula)という言葉を、日本では一体どれくらいの人が知っているでしょうか?

バースフィスチュラとは…出産時に赤ちゃんの頭が長時間、母体を圧迫することで体内の組織が壊死して生じる瘻孔(ろうこう)=フィスチュラを指します。全世界に200万人~300万人のフィスチュラサバイバーがいると言われ、主にアフリカ・南アジア・中東などの途上国で多くみられる、女性の健康と尊厳に関わる国際的な課題の1つです。

バースフィスチュラの背景として、適切な産科医療を受けられないこと、早婚が慣習となっていて未熟な心身に負担がかかる若年出産が多いこと、またインフラ・教育・保健衛生の未整備などの途上国特有の事情が、本来なら予防可能なバースフィスチュラの発生を助長しています。

バースフィスチュラを発生させた出産の7割~9割は死産に終わります。通常、出産の所要時間は初めての出産では約12時間、2回目以降の出産で約6時間と言われていますが、バースフィスチュラに陥るケースでは、2~3日の陣痛、中には4日以上に及ぶ陣痛もあります。出産後は膣から尿や便が垂れ流しになります。病院に行くことができずに放置されるケースが多く、皮膚感染や腎臓疾患を合併し、治療しないと死に至ることもあります。

夫・家族や地域社会からは「生殖能力のない無用の厄介者」扱いをされ、コミュニティからは見離されて精神的苦痛を受け、孤立して経済的な困窮に苦しむケースも少なくありません。フィスチュラサバイバーは子どもを失った悲しみとともに、社会的にも甚大なダメージを抱えて生きています。

バースフィスチュラは予防・治療が可能であり、専門家の手術により9割前後の確率で治すことができます。しかし、非識字者が多く、その情報が正しく伝わりにくいのが現状です。また、知っていたとしても遠隔地に住んでいるため医療ケアを受けられる場所まで行くことができない、男尊女卑の文化で家族からの承諾が得られないなど、自分の意思で治療を受けることが難しいケースもあります。

そのような困難な状況にある女性たちへの支援として、2017年にLapis Lazuli Earth(ララアース)を創設しました。イベント等で啓発活動を行い、バースフィスチュラ基金と称して「安産1コインプロジェクト」を始動しました。安産1件につき、1コインをバースフィスチュラ基金に寄付するという方法です。安産に導くためには助産師自身の知識・技術の向上が必須です。自分自身の意識の向上が途上国支援に繋がるということをコンセプトにしています。また、支援のためにわざわざ時間を作る必要はなく、勤務時間の中でできるというのがポイントで、持続可能な方法であると考えています。

2018年1月に、これまで集めた20万円をFistula foundationへ全額寄付しました。ひとりあたりのフィスチュラ整復手術+リハビリ料金は約6万円なので、3人の女性の未来を変えられるかもしれない額を送金することが出来ました。2017年10月には、バースフィスチュラドキュメンタリー映画の上映会も行いました。現在は約20名の賛同者に活動を応援してもらっています。賛同者の方々が各々の分野で呼びかけ、私がお会いしたことがない方にも賛同していただき、啓発の輪が広がっています。

タンザニア渡航時に出会った赤ちゃん。4000gで出生。
 「途上国に平等な教育機会の創出を」NPO法人Class for Everyone
 の事業で、僻地の小学校に性教育を届けるプロジェクト
UHURU – Class for Everyoneに同行しました。

活動に至るまでのきっかけエピソード

私は3人兄弟の末っ子で、溺愛の父とあっさりさっぱりの母、型破りな長男、ひょうきん者の次男と朗らかな祖父母の7人家族のもとに生まれました。幼少期は愛想のない女の子だったそうです。地域との繋がりが深く、近所に子どもがたくさんいる環境で育ちました。私自身は物静かな感じで、兄2人が活発な性格でした。

高校生のときは将来の明確なビジョンが何もありませんでした。周囲の薦めもあって、看護とはまったく関係のない短大に進学しました。当時医療事務のアルバイトをしていた産婦人科の院長に「就職先が決まっていないなら、卒業後はうちに正社員として就職したらどう?」と声をかけてもらい、短大卒業後は医療事務員として働いていました。

20歳のとき、このまま医療事務の仕事を続けていくか悩んでいた矢先に、4つ上の兄に子どもが生まれました。姪っ子が可愛くて可愛くて、こんなに可愛い赤ちゃんに接する仕事は助産師しかない!と思いました。医療事務の仕事をしながら受験し、翌年看護の道へ進み、卒業後は助産師学科に進学しました。助産師学科在学中の24歳でなぜか結婚しました(笑)。

バースフィスチュラ問題に衝撃を受け、仕事と育児をしながら大学院へ

初めてバースフィスチュラを知ったのは2015年2月、JICA地球ひろばでバースフィスチュラについてのドキュメンタリー映画の上映会に参加したときで…ショッキングな出来事でした。当時まだ子どもが幼く、現地で活動することは不可能。「私には何もできない…。」と無力感に苛まれました。しかし「この悲惨な現実を知ってしまった以上、何もしないではいられない。」という思いが込み上げてきました。

助産師になって7年目、子どもが4歳になり日常生活がある程度自立してきた頃に、大学院へ進むことを決心しました。子育ては小学生・中学生・高校生とその時々にそれなりの大変さがあって、子育てが終わったら親の介護が始まるかもしれない…。「これ以上子育てが楽になることはないなら、今だ!」と思い、働きながらでも通うことのできる大学院を選び、進学しました。大学院修了前に「バースフィスチュラ基金」を立ち上げ、修了後にララアースを創設。周囲の賛同者の方々と共に活動を続けています。

まずは日本の助産師に知ってほしい。今、世界で起こっていること。

バースフィスチュラ啓発のため
 日本母性衛生学会にて発表した時の様子

助産師教育の課程で、日本の教科書には『バースフィスチュラ』という言葉は載っていません。現役の助産師に聞いても「全く知らなかった」という声がほとんど。国際社会の支援の行き届くところではバースフィスチュラが起きていないのが現状で、今も支援の行き届かない最底辺の場所にいる少女・女性に生じています。母子保健の国際援助関係者ですらバースフィスチュラを知らないくらいなので、国際問題に関心の薄い人に向けて啓発するのは本当に難しいテーマだなと日々感じています。

バースフィスチュラは貧困をベースにインフラの未整備、紛争による治安の悪化、FGM(女性器切除)をはじめとするジェンダー、宗教・文化との関連もあり、様々な側面から理解が深められる問題でもあります。ひとつひとつの発生要因について、専門知識のある男性や支援者の方に働きかけをしていくことが啓発のコツなのでは?と最近は試行錯誤中です。イベントでは国際協力関連でNPOを運営している方をゲストとしてお呼びし、その方のお話にバースフィスチュラの実態を関連づけてお話しをするという方法で、工夫しながら啓発活動を続けています。
2018年8月にはエチオピアの専門病院を訪問し、実際にフィスチュラサバイバーの方と対面したいと思っています。

キアラ読者へのメッセージ
国際協力に関心のある方、関心があるけれど自分に何ができるかわからない方へ。
私自身、現地で活動している訳ではないので偉そうなことは言えませんが…人は個人で生きている訳ではなく、嫌でも社会に属して生きている、社会に生かされている状態です。なので、私は社会問題に関心を持ち、少しでも社会に還元できることを考えながら生きている方が良いのではないかと思っています。
私はただ寄付を集めるのが最善な方法とは思っていません。本来はバースフィスチュラになってしまった人の支援ではなく、予防に越したことはありません。しかし、発生要因が複合的なので予防は難しいです。何も大きなことをする必要はないと思っていて、私たちにできる小さな一歩を実践していくことが大切だと感じています。国際社会で起きている問題について、調べればいくらでも情報収集ができる時代です。NGOや国連機関にアクセスして自分にできることを探してみる。黙っていても誰も「こうすればいいよ。」なんて教えてはくれません。自分から一歩を踏み出して、きっかけを掴んでみて下さい。

助産師:小笠原絢子さんの将来の夢
私自身も途上国の問題に興味関心を持ったのは社会人になってからです。バースフィスチュラをきっかけに、いろいろなことに興味関心を持ち始めました。

タンザニアの若年妊娠を予防する
 性教育プログラムで回った小学校にて
 一杯の給食

特に世界と私たち日本人との関わりについて、より深く考えるようになりました。戦後からたった19年目で東京オリンピックを開催し、高度経済成長を遂げた日本。そんな国ってなかなかないですよね。戦後の荒廃から短期間で立ち上がれたのは、日本人が勤勉だったとか、もともと強いコミュニティがあったという理由もあるけれど、一番はユニセフをはじめとする国際社会からの援助があったからだと思います。当時の金額でユニセフだけで60億円以上の支援があったそうです。私の父親世代が国際援助を受けて健全な成長・発達ができたからこそ、私たち次世代にまで教育が行き届いているのです。今の日本が平和で安寧なのは国際社会の援助があったおかげなのに、そんな歴史的背景を知らない人も多いです。

それに加えて、途上国の資源や人材を使って経済発展を遂げた日本。その過程で生じた諸問題(紛争や環境問題、児童労働等)に関心がある人は残念ながら少ないです。途上国に関心を寄せるということは特別なことではなくて、むしろ歴史的背景を考えれば、日本は途上国の諸問題を率先して解決する責任があると思います。まずは世界で起きている様々な問題について正しく理解し、できることから始めてみませんか?「祈る」「願う」「信じる」に留まっていても、現地の状況は何も変わりません。行動あるのみ!

私は今後もバースフィスチュラのない世界を目指して、人として、女性として、母として、助産師として、バースフィスチュラを追究=life workにしていきます。

 

 

【イベントのお知らせ】

4/20(金)若年妊娠の実態と予防的支援

~ソーシャルワーカーの視点から~

若年妊娠は身体的・精神的のみでなく社会的ハイリスクと言われています。日本の女子の婚姻可能年齢は16歳ですが、これは児童婚にあたると国際的な批判もあり、国連から是正勧告が出された過去もあります。バースフィスチュラの発生要因のひとつでもある若年妊娠…。その実態を知っていますか?

多くの若年妊娠ケースに保育士兼ソーシャルワーカーとして向き合って来た三瓶さんをゲストに、若年妊婦の現状、問題点、支援の実際についてお話をしていただきます。母子保健や教育関連の専門職者、思春期のお子さんを持つ親御さん…どなたでもご参加いただけます。

日時:2018年4月20日(金)
17:50 会場
18:00~19:10 三瓶さんのお話
19:15~ バースフィスチュラについて
19:30~20:00 質疑応答

場所:北村医院(東横線・目黒線 元住吉駅より徒歩5分) 2階Mルーム
http://www.kitamura-hosp.com/

費用:1,500円(うち500円はフィスチュラ基金へ寄付します)、学生無料

【参加申し込み】Facebookイベントページはこちら

小笠原絢子さん
インタビューのご協力
誠にありがとうございました!

女性起業家インタビューサイト「キアラ」では月に1度、今一番輝いている女性をピックアップしインタビューを掲載しています!インタビュー依頼は「インタビュー依頼」よりお願いいたします。(since 2016.1.1)

主催:NPO法人アラジ